2020年5月17日日曜日

陸軍中野学校 開戦前夜

シリーズ最終章「陸軍中野学校 開戦前夜」 毎日楽しみにしていた陸軍中野学校シリーズもこれで最後。本作は前作ラストシーン、船上に独り立つ諜報員椎名から始まる。時はすでに昭和16年11月、開戦一ヶ月前の香港。アジア圏における英米の機密情報会の情報を得るためなんとか極秘資料を手に入れる椎名だが相手側に探られ拷問を受ける。冒頭からフィルムノワールを彷彿させる光と影、ハイコントラストな映像演出で、見る側をハラハラさせる。やがて本土戻った椎名は今度は後輩の中野学校生と共にすでに開戦は避けられなくなった苦境の日本を已む無く、如何様に戦争へと運ぶかに苦渋する。本作も椎名と女性との関係性、孤独を避けられない影に生きる者同士の宿命たる運命に終決する。開戦明けたラストで時を刻む柱時計は、その後の日本の運命、と同時に、その翌年に逝去する市川雷蔵の刻々と迫る本人の挙動なのだろうか?と今、この時代に見る側の者は考えざるを得なかった。 
当時、本シリーズの数年前から007は始まっており、時代はスパイ映画となっていた。「ロシアより愛をこめて」で嫉妬し、Pニューマン起用で作った「引き裂かれたカーテン」キューバ危機を描いた「トパーズ」など、それまでの汎娯楽主義から上手く時代とそのリアリズムに溶け込めなかった晩年のヒッチコックとは対照的に、このシリーズでは、リアリズムと娯楽、そしてフィクションが上手にブレンドされ、敗戦国であるにも関わらず、軍部と外交派という異する路線を現わすことで、まさにギリギリのところで敵国とそのスパイ、軍部、憲兵、政府、そして椎名率いるその他諜報員それぞれの立場と人間模様を描いている。全盛期だった映画産業も徐々に陰りを帯びてきた60年代、たった1時間半前後でここまでの密な構成の作品を数年間で立て続けに作ってしまう当時の日本映画業界の技量は称賛の限りに尽きる。

さて、次は何を見ようか?
もうちょい雷蔵に留まるか現在検討中。
…てか、その前にシリーズ全制覇でめちゃくちゃ嬉しいワ、あ、でももうお楽しみがなくなってかなり寂しい。
もっと陸軍中野学校見てーよ、なんでだよ、あー。
…つぎは多分、大菩薩峠かな??